日本滑空協会会長 ご挨拶

令和4年度の当協会の定時総会および引き続いて開催された理事会におきまして、後藤前会長の後を受けて新たに会長織を務めさせていただくことになった石川隆司と申します。現在は名古屋大学で、特任教授として自動車用炭素繊維複合材料の研究開発プロジェクトを統括しております。前職は、宇宙航空開発研究機構(JAXA)の航空部門担当理事でした。

公益法人である当協会は、これまでグライダー・スポーツを愛好する人々の便宜と安全を確保することを目的として活動をしてきた実績を有しますが、これからも引き続きグライダー・スポーツの普及と発展を通じて、特に若い世代を中心とした人々の心身の健全な発展に貢献することを目的に、当協会の活動をより発展させていきたいと考えております次第です。

私は、グライダーにも一部使用されている炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を中心とする先進複合材料の力学的挙動の研究を、大学院以来、50年の長きに渡って続けて参りました。国際的にも著名な存在になったと自負しております。

グライダーにとってガラス繊維強化プラスチック(GFRP)とCFRPは不可欠な材料です。これらの材料の特徴として、軽くて強いことすなわち軽量・高強度であること、疲労に強いこと、耐薬品・耐水性のあること、雌型に入れて成形するので曲面が精度よく得られること、などが挙げられます。軽量・高強度で翼形が精度よく発現できるので、グライダーにとっては最適な材料と言えます。

ただ、耐水性に関しては注意が必要で、吸水・排水の回数が増えていくと、繊維強化複合材料の母材(繊維を包みこむ材料のこと)であるプラスチックを構成する高分子の鎖が水分子によって少しずつ切断されて劣化するという現象が起きます。したがって、無用な吸水は避けるべきで、グライダーの屋外係留の場合には、シートをかけておくことが適当です。また、表面を覆っている塗装の亀裂が高密度で発生した場合には、早めの塗替えに取り組むことも必要です。疲労荷重に強いことも特徴の一つで、かつてオーストラリアで高性能グライダーの疲労試験が実施されましたが、7万時間相当のランダム飛行荷重の負荷を与えても全く損傷が発生しなかったことが報告されております。

さて、当協会の事業計画について復習をしておきますと、その目的は、航空行政あるいは航空団体への働きかけ、各種情報の発信等により、グライダー・スポーツ愛好者や各地のグライダー団体との連携を図り、安全対策の徹底を意図した講習会を開催し、これらを通じて「安全と楽しさ」を推進していくことにあります。このように、グライダー・スポーツを楽しむ人々のために最大限の手助けを提供していく所存でありますので、当協会に対しまして従来にも増して温かいご支援とご理解を賜りますようお願い申しあげて、新会長の就任あいさつとさせていただきます。

 

                     公益社団法人日本滑空協会
会長 石川隆司