暑さと紫外線に備える夏のフライト〜酷暑時代のグライダー安全対策

酷暑が常態化するなか、夏のグライダー活動には熱中症や紫外線対策が欠かせません。指導者や愛好家へのアンケート、そして専門家への取材から、安全な夏のフライトに必要な対策を考えます。
★本記事では、機関誌『Gliding Japan』2026年7月発行分に掲載の「酷暑時代のグライダー安全対策」のために実施したアンケート結果を詳述します。
あなたのクラブではどんな対策をしていますか?クラブの熱中症対策、現場の課題
スポーツ時の熱中症対策について、スポーツ庁は、暑さに体を慣らす「暑熱順化」に加え、個人の体調確認、トレーニング量の調整、水分補給、休憩などの重要性を挙げています。
特に、下痢や発熱、疲労など体調が悪い場合は、暑い中で無理に運動しない、させないことが大切です。
また、日本スポーツ振興センターのハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)は、スポーツドリンクには水分、糖質、電解質が含まれ、運動時の水分補給に適していると説明。
運動時の飲料としては、糖質濃度3〜8%、食塩濃度0.1〜0.2%が適切な範囲とされています。
こうした指針からも、夏場のグライダー活動では、単に水分を摂るだけでなく、活動前から体調を確認し、無理のない運動量に調整すること、こまめに休憩を取ること、そして状況に応じて糖質や電解質を含む飲料を活用することが重要だといえます。
アンケートで見えてきたこと
編集部で5月にインターネットで実施したアンケートでは、社会人クラブや航空部で指導・運営に携わる人と、クラブ員それぞれに熱中症対策について聞きました。
まず15の社会人クラブおよび航空部の指導者や運営管理者から回答を得た結果で、熱中症対策で最も多かったのは「水分補給の呼びかけ」で約9割。次いで、「日陰や休憩スペースの確保」「クラブ内の連絡や、当日のブリーフィングでの注意喚起」「クラブ員の体調確認の実施」が大半を占めました。
一方で、「熱中症対応手順、休日対応病院など救急時のプロセスを共有している」は約2割にとどまりました。水分補給や日陰の確保といった予防策は広く行われているものの、実際に熱中症が疑われる事態が起きた際の対応手順まで共有しているクラブは、まだ一部に限られていることがうかがえます。社会人クラブは週末の活動が中心ですので、近隣で休日でも対応してくれる病院はあらかじめ把握しておきたいものです。

JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)のWebサイトより
暑さによる活動中止や短縮の判断基準については、「その都度判断している」が5クラブで最も多く、全体の約3割を占めました。次いで「およその目安がある」が4クラブ、「明確な基準がある」は2クラブにとどまり、事前に明文化された基準を持つクラブは多くないことがわかりました。
「明確な基準がある」と答えたクラブからは、「予想最高気温35℃以上もしくは暑さ指数31℃以上の場合」「環境省の熱中症予防情報サイトを見て、WBGTが“赤=危険(31℃以上)”で6時間以上続く場合は運航中止とする」といった回答がありました。
一方で、はっきりとした基準を持たないクラブからは「熱への耐性は個人差が大きく、気温やWBGT指数は参考にするが、一律にはしない。有効だが管理者の責任逃れツールになって有効に機能しない危険がある」との理由が示されました。このクラブでは、フライト当日までの生活や当日のコンディションを見極め、個人別チェックリストを使って判断しているといいます。
熱中症対策に対する自由回答では、喉が渇く前に水分を取る意識づけに加え、午前・午後におやつを補給し、エネルギー不足や血糖値の低下を防ぐ工夫を挙げる人もいました。また、「体調管理の担当者を決めてマニュアルを整備する」「冷房の効いた車内で休憩を取る」「水冷服はかなり効果があるが氷の確保が課題。ポータブル冷凍庫を導入し、太陽電池で駆動させている」といった回答もありました。単なる暑さ対策にとどまらず、判断力低下や事故防止の観点から、補食や休憩を重視する必要性が示されています。
一方、「夏季訓練開始前に学生を集めてレクチャーを実施している」というある大学の航空部では、「熱中症と脱水症の違い」「熱中症は深部体温の上昇であること」「休憩、冷房、救急車要請など初動対応の重要性と、ためらわないこと」「水分・塩分摂取の意味と限界」「個人差が大きいこと」「暑熱順化の方法」などを共有しており、今年は早めに5月末に実施したといいます。
体調の不安を躊躇なく伝えられるように
クラブ員の回答では熱中症や脱水への不安に加え、滑空場周辺で水分をすぐに買える場所が少なく、手持ちの水が切れたときや、上空で滞空中に飲み物がなくなって困ったという回答がありました。
また、機体の組みばらしやウインチなどの地上作業中に、日差しにさらされ続けることの危険性も挙げられました。実際にクラっとした経験や、熱中症の影響と思われる意識混濁の経験談も寄せられ、暑さ対策は単なる快適性の問題ではなく、安全運航に直結する課題だといえます。
クラブ運航で改善してほしい点としては、水分補給の手段や冷たい飲み物の確保、待機時の日陰づくり、地上活動者の冷涼環境の整備を求める声が目立ちました。「30分ごとの給水コール」「慣れていない人は13〜15時頃に休憩する」「警戒レベルを設定し、そのレベルに達しそうな時は活動しない」といった、より具体的な運用を求める回答もありました。
また、「指標があっても、実際には訓練飛行が連続的に行われていることもあり、中断しづらい雰囲気はある」という人や、高齢のベテラン会員が酷暑の中でも休まず活動していて「休みにくい」という人もいて、新しい会員や下級生などでも、疲労や不調をためらわず伝えられる雰囲気づくりが課題として挙げられました。
「本人が『大丈夫』と言っていても、本当に大丈夫なのか判断しにくい」という声もありました。熱中症の初期症状は本人も自覚しにくい場合があります。自己申告だけに頼るのではなく、周囲が様子の変化に気づき、早めに休憩を促せる仕組みが必要と言えそうです。
アンケートのコメントの紹介
<熱中症?と思う経験や、ヒヤリとしたこと>
*自分では「まだ大丈夫」と思っていたが、トレーラーの中に入った瞬間にクラっときたことがある
*熱中症の影響と思われる意識混濁の経験がある
*滞空して上空で水分がなくなってしまったことがある
<困っていること・不安なこと>
*クーラーボックスを使用して飲料を冷やしているが、やはり午後になるとぬるくなってしまうことに困っている。また、個人の体調に関しては個人でしか分からないため本人が「大丈夫」と言っていても本当に大丈夫なのか否かがわからないときがあるように感じる
*暑さ指数などで指標があっても、実際には活動が連続的に行われているときもあり、中断しづらい雰囲気はある
*テントを立てても日中暑すぎて、1日活動できない。高齢の方が外に頻繁に出ていて、休みを取って欲しい
*ウインチなどの地上活動で交代要員がすぐに見つからず暑い場所で貼り付けになるリスクがある
*RWワークは各自の持ち場でそれぞれ動くため、全員の様子をピストから常に観察することが難しいと感じる
<熱中症対策の例>
*午前と午後におやつを補給している
*喉が渇く前に水分を取る、という意識づけを徹底している
*熱中症・体調管理の担当者を決め、対策マニュアルを整備している
*冷房の効いた車内で1時間昼寝をする
*乗用草刈機で作業中に体調の異変を訴える会員がいたため、単独での作業を避け、定期的な水分補給を行うよう注意喚起している
*水冷服はかなり効果があるが氷の確保が課題。ポータブル冷凍庫を導入し、太陽電池で駆動させている
*定期的(30分に1回以上)に水分補給の呼び掛けをする。警戒レベルを設定して、そのレベルに達しそうな時はやらない
*30分ごとの給水コール、慣れていないクラブ員は13時から15時頃に休憩させる
*各員の疲労が出る前に給水や栄養補給、休息を確実に取れたり、万一疲労を感じても、熱中症やヒヤリハットが発生する前に下級生等どんな立場でもためらわず連絡できるシステムや仕組みを自大学内で確立したい
そのほか、『Gliding Japan』では、「脳と熱中症」「皮膚科医による紫外線対策」「サングラス選びのヒント」などの記事を掲載していますので、併せてご覧ください。

